2021年12月22日
3DCADデータさえあれば、短期間で金属を加工できる金属3Dプリンターは、近年海外を中心に普及しており、国内でも活用が始まっています。新しい機能が追加されたモデルや付加価値が付いたものなどが次々とリリースされており、この技術進歩によりますます高機能化が進むと考えられるでしょう。
金属3Dプリンターによる試作はさまざまな利点があることから、試作のために導入を検討する企業も少なくありません。
この記事では、金属3Dプリンターを用いた試作について解説したうえで、金属加工の種類や試作の依頼方法を紹介します。企業の経営者や担当者の方は、ぜひ金属3Dプリンターの導入や金属3Dプリンターでの試作依頼の際の参考にしてください。
目次
金属3Dプリンターを用いて試作をする理由について紹介します。
金属3Dプリンターを使うと、これまでは2次元の図面上や画面上でしか確認できなかった段階でも、完成品に近い実物の試作品を手に取ることができます。そのため、どのような仕上がりになるかが具体的にイメージでき、実際に作った際の課題や改善点なども挙げやすくなるでしょう。また、製品紹介の場では、説明がしやすくなる利点もあります。
完成品を量産化する前に試作することにより、強度や耐久性などを事前に検証できます。これにより、計算上では確保できたはずの強度や耐久性が、完成品では確保できなかったといったような大きなトラブルを未然に防げるでしょう。また、検証のために時間を多く確保できるため精査が可能となり、さらなる品質の向上にもつながります。
通常の金属加工の工程では、設計したものを試作・試験し、設計変更を繰り返して量産に至るのが一般的です。何度も試作を繰り返すことが重要ですが、試作品の製作はたとえ小ロットでも大きな手間やコストがかかっていました。
しかし、金属3Dプリンターを用いた試作は、データがあれば短時間で簡単に実行でき、データを修正するだけで改良を重ねることが可能です。また、製作や設計変更にかかる時間の削減により、人件費を抑えられるのも大きな魅力でしょう。
さらに、金属3Dプリンターでは、大きさにもよりますがいくつかの候補となる形を1回で造形するカスタマイゼーションも可能なので、より効果的にコストを削減できます。
金属試作加工の方法は種類が多く、製品の素材・形状・個数などによって適切な方法が異なります。加工方法で強度に差が出る場合もあるため、適切な加工方法の選択には専門的な知識と経験が欠かせません。
ここでは、金属試作の加工方法を選ぶ際に、理解しておきたいおもな4種類の加工方法を紹介します。それぞれの特徴を知り、試作品の適切な加工方法を見極めるための参考にしてください。
積層造形とは、「Additive manufacturing(付加製造)」と呼ばれる金属加工技術の一つです。金属3Dプリンターにより、3Dデータからスライスされたデータに基づいて金属粉末などを1層ずつ積み重ねて3次元の形状を作り出します。
金属3Dプリンターは、内部に複雑な形の空洞や曲がりくねった冷却管があるなど切削では難しい形状へ加工する際におすすめです。試作加工の所要期間と費用を抑えられる点が魅力ですが、切削ほどの精度は期待できません。
鋳造は、金属や木材の鋳型に、熱を加えて溶解させた金属を流し込んで成形する加工方法です。鋳造は使用する模型・鋳型・鋳込方法などによって種類が分けられ、種類によっては安い費用で行なえます。しかし、精度はあまり良くないので、必要な箇所に切削での2次加工を施さなければなりません。
また、従来の木型を使用する砂型鋳造ではコスト削減などに限度があったことから、鋳造用砂型3Dプリンターが注目されています。鋳造用砂型3Dプリンターは、ダイレクトに砂型を造形できるので短期間での製作が可能ですが、表面が粗くなる点がデメリットです。
切削加工とは、専用の刃物で金属を削り、余分な部分を除去して設計どおりに造形する加工方法です。切削加工にはさまざまな種類があり、そのなかで素材を回転させながら切削用の工具を当てて削る方法は「旋盤加工やターニング」と呼ばれます。
旋盤という機械で素材を固定して回転させ、バイトと呼ばれる刃物状の工具を当てて削ることで、ボルトやコネクタなどの製作が可能です。コストは比較的低く、特に丸形状の加工に使用されることが多いのが一般的です。ただし、細かい造形や中空構造には不向きな加工方法です。
マシニングセンタという、製品加工に合った工具を選択できる工作機械を用いた切削加工を「マシニング加工」と呼びます。プログラミングに基づいて自動制御された切削工具で、素材を削って造形していく加工方法です。
素材を固定して工具が回転するため、ポケット加工や穴あけ、箱型や複雑な3次元形状の加工を得意としています。
しかし、加工の自由度が高い反面、事前のプログラミングには一定の技量が必要となり、また加工時間が長くコストが高めなのが難点でしょう。また、旋盤による切削加工と同様に、細かい造形や中空構造には不向きです。
金属3Dプリンターを用いた試作を専門業者に依頼する場合の、一般的な流れについて解説します。
金属3Dプリンターによる造形サービスでは、3DCADデータをもとにした試作品が短納期で製作可能です。おもに、STL・STEP・IGES・Parasolidなどのデータ形式に対応しているため、これらの形式に合わせた3DCADデータを用意し、依頼する専門業者に渡します。
「現物はあるが3DCADデータが手元にない」という場合は、現物の形状データをスキャニングして3DCADデータを作成する、リバースエンジニアリングサービスの利用を検討するとよいでしょう。
なお、データ提供の際には必要に応じて業者と機密保持契約を締結することで、外部への情報漏洩を防ぐことができます。
次に、試作品の素材を選びます。金属3Dプリンターによる試作加工は、ステンレス鋼・マルエージング鋼・ニッケル合金・アルミニウム合金・銅合金・純チタンなど、さまざまな種類の金属が使用可能です。また、上記以外にオリジナル素材での試作に対応しているサービスもあります。
要望や3DCADデータをもとに、工程・価格・納期などを詳細にした見積りを作成してもらいましょう。納期は試作品の数や大きさ以外に、専門業者が保有する金属3Dプリンターの種類や台数、使用する金属の在庫の有無などによっても変動します。
また、材質ごとに造形速度や積層する厚みも異なるので、同じ形状でも価格が変わってくる点にも注意しましょう。
金属3Dプリンターによる試作品の完成後には、寸法検査や外観検査、3Dスキャニングによる品質検査などが行なわれます。各検査で問題がなければ、希望した配送方法で指定の場所に試作品が届くので受け取って完了です。
金属3Dプリンターを用いた試作品は、3DCADデータがあれば短時間で製作が可能です。実際に試作することで具体的なイメージがわきやすく、完成品を量産化する前段階でのコスト削減や課題改善などが可能になるでしょう。さらに、強度や耐久性などの検証に注力できるため、品質の向上につながる点もメリットの一つです。
金属の加工方法には、3Dプリンターによる積層造形、鋳造加工、切削加工などさまざまな種類があります。なるべくスピーディーでコストを抑えて試作品を製作するためには、それぞれの特徴を知り、適切な加工方法を見極めて選ぶことが重要です。
この機会に、ぜひ金属3Dプリンターでの試作を検討してみてはいかがでしょうか。
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