2024年6月28日
STLの基本を説明した【前編】に続く、【中編】では当社での活用事例をご紹介しました。最終回となる【後編】では、当社でも使用しているSTL編集ソフトのMagicsを中心にお伝えします。
今回はMagicsを販売しているマテリアライズジャパン株式会社の小林毅さんから直接お話を伺うことができました。
目次
まず、一般的な金属AMの造形の流れは、以下のようになります。
これらの工程の中でも、特にSTLファイルへの変換からスライス処理までのデータ準備工程では、ソフトウェアに関する専門的なノウハウが重要となります。
Materialiseが提供しているMagicsは、バージョン26からは、Parasolidのカーネルを追加し、標準機能でSTEPファイルの読み込みに対応しました。これにより、設計者がCADソフトで作成した3Dデータを、より柔軟にSTLファイルに変換できるようになりました。※最新バージョンは28
また、メッシュ編集機能に加えて、BREP(Boundary Representation)編集機能を導入しています。BREPは3Dモデルの表面を数学的に表現する方法で、メッシュ変換前にBREPデータを直接編集できます。この機能を使うことで、設計者は造形に必要な簡易的なパーツの編集、例えば後加工を行う削り代の追加などをMagics内で行うことができ、CADソフトへの手戻りを減らせます。
※カーネルとは、3D CADがPC上で3D形状を表現するエンジン部分。※Parasolidは、シーメンスが開発したカーネルで商品名です。
Magicsの機能は、以下のような課題の解決に役立ちます:
小林さんによると、金属AMにおける最大の課題は、造形中のレーザーによる加熱に伴う熱応力による変形や収縮をいかに抑えるかという点にあるそうです。「金属AMでは、レーザーによる局所的な加熱と冷却が繰り返されるため、造形物に大きな熱応力が発生します。これが変形や収縮の原因となるのです」と小林さんは説明します。
この問題を解決するために、金属AMではサポート構造の設計が重要な役割を果たします。小林さんは次のように説明してくれました。
「サポートには、造形物をベースプレートから剥離させないようにする役割があります。また、重要な領域にアンカーとなるサポートを設計し、熱伝導を向上させることで、変形や収縮を最小限に抑えることができます」
ただし、サポートを付けすぎると、除去の工程で造形物を損傷させてしまうリスクがあります。「サポートの設計は、変形・収縮の抑制と除去のしやすさのバランスを見つけることが重要です。これには経験とノウハウが必要不可欠です」と小林さんは強調します。
Materialiseでは、これらの工程を効率的に行うため、以下のようなソフトウェアを提供しています。
小林さんは、「これらのソフトウェアを活用することで、造形依頼をしていただいたお客様に手間をかけることなく、高品質な造形物を提供できます。固有ひずみシミュレーションによる変形予測は、根拠に基づくサポート設計で造形成功率を向上させ、e-Stage for metalは、最適なサポート構造を自動で設計してくれるため、省人化と品質の安定化に大きく貢献できると考えています。後処理工程の負荷が軽減することも大きなメリットとなると思います」と話してくれました。
JAMPTでも、これらの工程を効率的に行うため、Materialiseのソフトウェアを利用していますが、その一部をご紹介します。
たとえば、造形失敗の原因の約8割が熱変形に起因すると言われています。
実際の造形例を見ると、このような変形が起きますが、シミュレーションの結果と実際の造形物を比較すると実際の変形とほぼ一致していることがわかります。もちろん、完全に予測できるとは限りませんが、適切なサポート設計をするうえで大いに参考になります。
サポートの形状についても、ソフトウェアによる自動設計でサポート形状の最適化を行うことにより、サポート部分の体積を削減し、粉末回収量を向上することでコスト削減につながっています。また、取り外しやすい細いサポート形状により除去工数を削減するなどして、コストと品質の両立に取り組んでいます。
金属3Dプリント造形では、熱応力による変形や収縮が大きな課題です。これを解決するために、サポート設計が重要な役割を果たしており、ここに受託サービスビューロのノウハウがあります。当社では、ソフトウェアを活用した最適なサポート設計を行うことで、お客様にお手間をかけることを最小限にしつつ、高品質な造形物を提供しています。
Materialise: https://www.materialise.com/ja
掲載にあたり、マテリアライズジャパン株式会社の小林さんにご協力いただきましたこと感謝申し上げます。