2021年6月9日
目次
金属3Dプリンターで銅を造形するメリットとしては主に下記が挙げられます。
*DfAMとはDesign for Additive Manufacturingの略称で、従来工法では実現できない3Dプリンター(積層造形)ならではの設計のこと
その電気伝導率・熱伝導率の高さから、銅は主に下記のアプリケーションに採用されています。
金属3Dプリンター用の銅粉末としては、「純銅」と「銅合金」の2種類に分類されます。
純銅は導電性と熱伝導率に優れており、ヒートシンクや高周波焼き入れ用コイル、導波管、クライストロン等、産業界でも広く使われている金属になりますが、これを金属3Dプリンターで造形しようとする場合、その高い反射率によりレーザーのエネルギー(熱)で粉末を十分に溶融させるのが難しく、またその優れた熱伝導率により与えた熱がすぐに拡散してしまうため、造形するのが非常に難しい金属になります。
ただ、近年はTrumpf社のグリーンレーザーや、ブルーレーザーという技術が出てきておりますが**、前者がコスト、造形可能サイズ、造形スピードに課題があり、後者についてはヤマザキマザック株式会社が2021年中に製品化を目指す動きがあったり、株式会社村谷製作所は製品化を実現していますが、共にコーティングレベルでの使用に留まっているようで、まだ現時点では立体的で複雑な形状のワークを造形できるレベルにはないようです。
**現在市場で販売されているレーザー方式(L-PBF)の金属3Dプリンターは赤色レーザーが主流になります。
EOSの代表的な汎用機であるM 290で純銅の造形に成功しているようですが、400Wのレーザー出力では純銅を十分に溶融させるにはエネルギーが足りないため、前述の通り、造形できるサイズや形状に制約があると思われます。
[2021年6月16日更新]
EOS社ホームページにて、純銅に関するデータシートがアップロードされていました(こちらをクリック)。
EOS M 290用に1KWレーザーを追加購入する必要がありそうです。熱処理後に、電気伝導率最大100% IACS達成できるようです。
2021年3月にプレスリリースが発表されましたが、現時点で電気伝導率・熱伝導率等についてのデータはありません。
GE Additive社によると、
レーザー(赤色レーザー)の場合、純銅はその2%の熱しか吸収することができないが、電子ビームの場合はその80%を吸収することができる。
参照元:GE Additive Arcam EBM launches D-material support for Pure Copper and Highly Alloyed Tool Steel
加えて電子ビーム方式の金属3Dプリンターの場合は真空中での造形になるため(レーザーの場合は窒素やアルゴン雰囲気での造形になる)、酸化を最小限に抑えることができます。酸化は伝導率の低下に繋がるだけでなくクラック発生の原因にもなります。
ただ、その優れた熱伝導率のため、造形が難しい金属であることに変わりはなく、電子ビーム方式の金属3Dプリンターを持っていれば誰でも同じようなモノが造形できる訳ではありません。アプリケーション毎に幾度の試行錯誤を経て確立する独自のパラメータ開発が求められます。
世界的に見ても、電子ビーム方式の金属3Dプリンターで純銅の造形を請け負っているサービスビューロはごく僅かで、日本では当社だけです。
(当社では電子ビームの金属3Dプリンターを3台保有しており、純銅の造形で豊富な経験・実績があります。)
電子ビーム方式の金属3Dプリンターで造形する場合、電子ビーム(マイナス電荷)によって金属粉末が帯電して飛び散らないように、先ずは金属粉末を仮焼結させるためのヒートアップが行われます。
その状態から一層毎に造形物のスライス断面に沿って金属粉末を溶融・凝固させ、それが終わるとプレートが一層分下に下がり、その上に新たに粉末層を敷き詰める→仮焼結のためのヒートアップ→金属粉末を溶融・凝固させる。
造形物が完成するまでこの一連の作業が繰り返されます。
造形完了後にはサポート材の除去が必要になりますが、内部流路があるような構造の造形物の場合、仮焼結した粉末が内部に残ってしまうため、これを取り除く必要があります。
内部流路の形状にもよりますが、入り組んだ形状の場合、この中の仮焼結体を取り除く作業が非常に難しく、造形物に粉末除去用の小さな穴を設けることが必要となる場合もあります。
この内部流路からの仮焼結体の除去については、まだ根本的なソリューションがなく、技術革新が待たれます。
[2021年6月22日追記]
Wayland Additive社(イギリス)の新しい電子ビーム方式(EB-PBF)の金属3Dプリンターでは、プレート上に敷かれた金属粉末の全体を仮焼結するのではなく、ユーザーが設定した箇所のみ(想定される箇所:ワークの断面およびサポート材)を仮焼結させることで造形ができます。これにより、造形後の仮焼結体の除去について進展が見られるかもしれません。詳しくはこちらの記事も参照下さい。
純銅よりも導電性と熱伝導率は劣りますが、銅合金であればレーザー方式の金属3Dプリンターで造形が可能です。
レーザー方式の金属3Dプリンターで造形する場合は、電子ビーム方式とは違い、造形物のスライス断面を溶融・凝固する前の「仮焼結のためのヒートアップ」という工程はありません。
また、造形後の造形物およびサポート材以外はサラサラの粉末の状態ですので、流路内に残った粉末も比較的簡単に取り除くことができます。(ただ、仮焼結体とまではいかなくても、溶融した部分の熱が伝わって固形状態の粉末が残る可能性があり、この場合は造形物に小さな穴を開けることが必要となる場合もあります。)。
これまではパウダーベッド方式(PBF)の金属3Dプリンターによる純銅の造形について説明しましたが、それ以外の方式でも純銅の造形は可能です。
以下にパウダーベッド方式の金属3Dプリンター以外の方式での純銅造形の取り組みと導電性・熱伝導率についてご紹介します。
電気伝導率が85.2%IACSとあり、当社実績値(パウダーベッド/電子ビーム方式)と比べると低い値となっている(熱伝導率に関するデータなし)。
電気伝導率が84%IACS、熱伝導率が350W/mKとあり、当社実績値(パウダーベッド/電子ビーム方式)と比べると低い値となっている。
この方式では、造形・脱脂・焼結という工程で製造され、あくまで金属が溶融凝固していないため、純銅を材料に用いても、パウダーベッド方式に比べて密度や導電性・熱伝導性が低くなる傾向があるようです。
電気伝導率・熱伝導率に関するデータなし。
現時点で電気伝導率・熱伝導率のデータがありませんが、「量産性(造形スピード)」という観点ではバインダージェット方式の優位性は高いと考えます。
電気伝導率・熱伝導率に関するデータなし。
電気伝導率・熱伝導率に関するデータなし。
純銅に比べると銅合金は電気伝導率・熱伝導率では劣りますが、強度や造形性(前述した電子ビーム方式での仮焼結体の問題)に関しては優位性があります。
電気伝導率が95%IACS、熱伝導率が377W/mKとあり(いずれも熱処理後)、熱溶解積層方式(FDM)での純銅造形よりも高い値が出ています。
関連記事は出ていますが、同社のホームページにおいて正式な製品ラインナップとしては掲載されていないようです。
当社ホームページはこちら↓
金属3Dプリンター総合技術サービス | 日本積層造形株式会社