2021年7月30日
徐々に実用化に向けた取り組みが進みつつある金属3Dプリンターですが、まだ造形の際の費用が高いことが課題の一つとして挙げられます。今回のコラムでは、金属3Dプリンティングの費用を抑えるための工夫をご紹介します。
目次
以前のコラムで金属3Dプリンターで試作等の造形を行う際の見積価格の内訳についてご説明しました。
当社の場合、造形の見積価格は大きく分けて以下の4項目で構成されます。
※その他、熱処理や、追加工等についても別途費用をお願いすることがあります。
これら、それぞれの項目について、試作段階での造形で費用を抑える方法と、実用化・量産化の段階での削減方法があります。
もちろん前者の場合は検討項目が限られますが、後者においては、想定以上の削減効果を追求できる場合があります。今回はその手法についてご紹介します。
あくまで費用を抑えるという観点では、そもそも金属3Dプリンターで作ることにあまり向いていない形状というのがあります。既存工法で製造している部品を単に金属3Dプリンティングに置き換えるだけでは価格メリットは出ないケースが殆どです。(他の工法では加工が難しい複雑形状の場合や、極めて納期が短い場合にはコスト的にメリットが出る場合もあります。)
特に粉末を敷き詰めるパウダーベッド方式の場合、1層毎に粉末を敷き、溶融・凝固を繰り返すため、高さ方向(Z方向)のサイズが、造形時間(マシンタイム)に大きく影響します。
また、比較的大きなソリッド(固形)形状の場合、1層毎のレーザーの照射に時間がかかる上、材料によっては残留応力による変形の原因にもなります。
この場合、電子ビーム方式で1層当たりの溶融時間を短縮することが検討できるでしょう。
逆に中空構造であっても、大きくて内部が特に複雑では無い形状(ケーシングのようなもの)の場合、前述の理由から、金属部分の体積のわりに造形時間が多くかかってしまい、費用も高くなるでしょう。
次に、金属3Dプリンターで作る必要性が確認でき、試作段階で金属3Dプリンターを活用することを決めた場合に、費用を抑える方法としては、「個数」と「納期とタイミング」が重要になります。
金属3Dプリンターは、金型レスで3Dデータから直接製品を製作する技術ですので、そのメリットを最大化するためにも、いくつも同時に作ってみることを検討することで、1個あたりの造形費用を抑えることができるでしょう。
その際、評価・破壊などの試験用に同じものを複数同時に造形することもできますし、作る形状を少しずつ変えて評価することもできます。
解析・シミュレーション技術の進展により、実物を試作して評価する機会が減る傾向にはあると思いますが、シミュレーション結果の検証や補正という観点からも、せっかく金属3Dプリンターでの試作を実施するなら、装置の造形領域に入る範囲で複数の試作品を作ってみることをご検討されては如何でしょうか。
まだ試作用途での利用が多い金属3Dプリンターは、短納期試作にメリットを感じて活用を検討されるケースが多いのが現状です。しかしながら、1ジョブあたりの造形時間の関係や、粉末交換の作業時間の関係で、どうしても装置が開いてしまうタイミングが出てしまいます。そこで、ある程度の納期の余裕がある造形依頼に対しては、稼働率を上げることができるため、マシンチャージを抑えて見積りできるケースがあります。
更に、少しビジネス面の話になりますが、上記の通り、試作用途での利用は、特に期末にかけて繁忙期となる傾向があります。逆に、新しい予算年度が始まってすぐは比較的閑散期ということになりますので、たとえば下期よりも上期、上期の中でも4~6月が価格交渉のねらい目となるでしょう。
さて、ここからがモノづくりの本格的なコスト対策ですが、金属3Dプリンターでの実用・量産に向けて取り組む場合、冒頭の「データ作成費」「造形費」「材料費」「検査費」のそれぞれの項目で費用を抑えるための方策を取ることができます。
基本的には、実用・量産部品で形状が確定する場合、品質管理の観点からも、粉末条件・造形条件・後工程での作業条件をすべて固定(ロック)しますので、3Dデータも基本的には変更しません。デザインの微修正や、造形個数の調整が必要なケースでは、一部データの調整が必要にはなりますが、試作での作業工数からは大幅に減らすことができます。
一回限りの試作や不定期の委託・受注と異なり、事前の発注計画などに基づいて、生産計画を立てて装置稼働率を設定できるため、マシンチャージの前提が大きく変わります。発注の頻度やリードタイムにもよりますが、マシンチャージを3割程度も下げられるケースもあります。
レイアウトやサポート設計の作りこみは実用・量産製品の条件を決める上で非常に重要な要素になります。装置内に最大個数を配置することや、サポート設計を工夫することにより、「材料の削減」「1個あたりの造形時間の削減」「仕上げ工数の削減」といった効果を追求することができます。
また、造形失敗の最大の原因となるのは熱応力による変形ですが、一回限りの試作の場合、それを回避するために、安全なサポート(熱変形を十分に抑えることができるサポート)で行うことになりますが、実用・量産製品の開発において、このサポート設計を必要最低限に抑えることを検討し、「材料費の削減」「造形費の削減」「後加工費の削減」を実現することができます。
造形条件(造形パラメータや造形レシピといいます)の最適化は、QCDのすべての面で最も重要な要素になります。コスト面に関しては、「造形スピード」を追求することで造形時間を短縮して「造形費の削減」が実現できます。
また、造形条件の工夫によって表面状態や寸法精度を改善することで、後工程での切削・研磨コスト(切削・研磨時間)の削減につなげることもできます。
前述の通り、主にサポート形状を工夫することで、使用粉末を最小化することができます。また製品とサポート以外にも、内部構造内に残ってしまう粉末というのがあります。これは見落とされがちですが、残留粉末は後加工の段階で再利用できるように回収できない場合があります。実用・量産の段階では、こういった細かなコスト対策も非常に重要になるでしょう。
前述のように、サポートや造形条件の工夫によって、仕上げ・後加工の工数を減らすことに加え、実用・量産製品では、専用治具や作業の手順化によっても、工数の大幅な削減を追求することができます。
試作と異なり、実用・量産製品では、もちろん品質保証・品質管理とのオフセットもあり、検査工程での工数削減は仕様と品質要求次第ではありますが、少なくとも、前項の仕上げ・後加工同様に、検査治具や手順化によって、工数削減の取り組みを追求することはできます。