金属積層造形における「クラック」のメカニズムと対策:品質安定化への道

金属積層造形技術は、複雑な形状の部品製造を可能にしますが、その過程で「クラック」が発生することがあり、品質と生産性に影響を与えます。ここでは、クラックの発生メカニズムとその対策について解説します。

金属積層造形におけるクラック発生のメカニズムと主な原因

金属積層造形において、意図しない場所で造形物が割れてしまう現象が「クラック」です。クラックは、造形中だけでなく、造形完了後に発生することもあります。
クラックが発生する主な原因は、金属粉末をレーザーで溶融・凝固させる過程で材料が収縮し、造形物内部に「収縮応力(ひずみ)」が発生することにあります。この応力が最終的にクラックへとつながります。

クラック発生には、複数の要因が関係しています。

  • 材質による特性:もともとクラックが発生しやすい材質が存在します。
  • 造形物のサイズと形状
    • テスト造形と比較して面積や体積が大きな造形物ほどクラックが発生しやすくなります。これは、収縮応力の総量が増大するためと考えられます。
    • 特に、角部は応力が集中しやすいため、クラックの起点となることが多いです。
    • 薄肉形状の部品も、造形不良や寸法誤差の原因となり、クラックに繋がりかねません。
金属積層造形された部品の底面で発生したクラックの事例
Photo.1 金属積層造形された部品の底面で発生したクラックの事例。直線部に沿って割れが確認できます。
金属積層造形された部品の底面で発生したクラックの事例2
Photo.2 金属積層造形された部品の底面で発生したクラックの事例。特に角部で発生していることが確認できます。。

クラックを防ぐための効果的な対策

クラックや変形を防ぎ、高品質な造形物を安定して製造するためには、事前の対策が非常に重要です。

1. サポート設計の最適化

  • 造形物とプレート間の接着を強化し、造形中の反りや剥がれを防ぐには、サポートの強度を高める設計が有効です。
  • 特に変位が大きい箇所にはソリッドサポートを追加することが有効であり、大型造形物の変形を抑えるには適切なサポートが重要です 。形状やサイズに応じたサポートがクラックや変形のリスクを低減します。

2. シミュレーションの活用

  • 特に大型造形物では、収縮による変形を予測するために、シミュレーションの活用が不可欠です。
  • シミュレーションによって、サポートの追加、造形姿勢の変更、スケール倍率の調整など、最適な造形条件を見つけ出すことができます。

3. 粉末管理と造形パラメータの最適化

  • 新粉と旧粉の不適切な混合や手動での撹拌不足は、造形物に境界線を発生させるため、適切な粉末管理が重要です。
  • 粉末の酸素濃度が許容値を超えると溶融条件が変化し品質に悪影響を及ぼす可能性があります。
  • 造形中の温度低下などを防ぐため、適切なヒーティングパラメータ設定が鍵を握ります。

4. 造形準備の徹底と手順書の改善

  • プレートの高さが不適切であったり、1層目の粉末が厚く敷かれていたりすると、プレートからの剥離が発生しやすくなります。
  • 造形準備の人的ミスを防ぐためには、手順書に画像を追加し、視覚的に分かりやすくすることが効果的です。

まとめ

金属積層造形におけるクラック対策は、材料・設計・プロセス・装置の状態、そして作業者のスキルや手順など、多角的な視点からのアプローチが必要とされます。これらの対策を適切に実施することで、高品質な造形物の安定生産につながります。

当社は、ISO/ASTM 52920やJIS Q 9100といった国際規格に準拠した品質保証体制のもと、安定した金属積層造形を実現しています。詳しくは品質保証ページをご覧ください。

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