金属3Dプリンターは、コンピュータとデジタル技術を駆使して、複雑形状を有する機械要素部品を丸ごと製造することが可能です。従来の「削って(除去)作る」(切削加工)から真逆の「くっつけて(付加)作る」(付加造形)への発想の転換により、3次元モデルのデジタルデータがあれば、どのようなデザイン形状の部品でも制約がなく造形が可能となります。
開発された当初は樹脂のみでしたが、現在ではセラミックス、金属・合金にまで拡がり、材料の種類を問わずに、単味の材料から、複数の材料を組み合わせた複合材料(マルチマテリアル材料)によるネットシェイプの部品造形も可能になってきています。
加えて、金属の積層造形技術では、造形時に金属合金の微細組織制御も行うことができるため、これまで熱間鍛造と熱処理技術を駆使した加工熱処理技術によってしか得られなかった金属組織制御の加工プロセス(インクリメンタルキャスティング)としての可能性が追求され始めています。この金属積層造形技術による「インクリメンタルキャスティング」の技術開発が進み、金属積層造形技術により金属の微細組織制御が自在にできるようになると、従来の素形材の製造プロセスが根幹から変革されることもあながち夢物語ではなくなります。
金属3Dプリンターに期待されているイノベーションは製造プロセスにおけるものだけではありません。上述したように、今や積層造形技術を前提とした「新材料開発」の大競争時代が始まっているといえます。近い将来、従来の材料開発プロセスでは製造不可能な、到底考えも及ばなかった画期的な新材料(マルチマテリアル)が、積層造形技術によってどんどん開発されるという材料技術のイノベーションがもたらされるかもしれません。
以上のように、金属積層造形技術は製造業と材料開発の分野にイノベーションをもたらす技術として、新産業創生にも大きなインパクトを与えうる革新的技術であり、欧米や中国を中心として、世界中で開発競争が始まっています。しかしながら、高い製造技術を有する日本では、金属3Dプリンターは物つくりのための一つのツールとしての認識が強いためか、欧米や中国の取組みより遅れているのが現状です。
今回の日本積層造形株式会社の誕生により、日本においても積層造形技術を用いた機械要素部品製造の応用が一気に進み、この技術開発の機運が盛り上がり、一般産業においても積層造形技術を用いた物づくりが普及していくものと期待できます。単なる一民間企業の誕生としてより、未来の「先進製造業」を推進・普及する「エンタープライズ」の誕生としての意義は大きいと期待しているところです。
東北大学教授(金属材料研究所)
千葉 晶彦